melancholy youth

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We Will



いや、早いって。


まだ"Re:結束バンド"のリリースから3週間ちょいしか経っていないというのにもう新作とはこれ如何に。あまりにもリリースのスピード感が早過ぎてこちらがもう追いつけない程音楽チームの熱が上がっているのか、それとも。

アニメ9話、劇場総集編Re:Re:で描かれている江ノ島でのひと時、その時に撮られた(であろう)4人の写真と今を照らし合わせるようなカットのアートワーク。
"私たちの意志"というタイトルの下同名のツアーに間に合わせるようにリリースまで漕ぎ着けたこの音源は、"少し未来の結束バンドのメンバーがそれぞれ楽曲を持ち寄って完成させた"というコンセプトによるマキシシングルEP。各々の心情とテイストが異なる4曲が収録されることとなった。

さて、今回も1曲ずつ触れていこう。例によって想像妄想勝手な解釈有りです、よしのに。


それでは、


1. milky way


揺れるアルペジオからほんのりボトルネック奏法を彷彿とさせるブルージーなリフでBメロに移行、パッと花開くようにポップでセンチなメロディでサビへ展開する。基調は同じだがここから2サビまでの間全てのパートに於いて同じような展開をすることなく更に転調していく。バンド以外にほんのりとシンセが効果的に使われているのは新たな要素。アウトロのクルクルと回転するリードギターは"Distortion!!"を彷彿とさせてくるアレンジ。育美さんのボーカルはこれまでで1番キャラに寄り添った歌声で、キュート感溢るるテイストに仕上がっている。間奏前の"ほら"のコーラスの音階の変化具合に驚かさせられる。ファミマの入店音のような高低差がある難しいパートをまたも作り上げているのか、そしてそれをモノにしてしまっている育美さんの化け物じみた声よ...。

自分を作りあげる様々な要素でキラキラとした何者かになっていたつもりだった喜多育代という人物が、結束バンドに参加したことで段々と自分自身が移り変わっていく、というストーリーに合わせた歌詞が展開される。そもそも自分がどういう人間であるかということも漠然としていたところにぼっちや結束バンドと出会えたことで人間性すら書き換えられてしまうような、いやそもそも分かっていたことを改めて認識させられたというもの。
そしてバンドをすることの喜びを感じていたのはぼっちだけではなく喜多ちゃんもそうであったということも描かれている。Bメロ最後部である、自分が引っ張っていくつもりで"抱きしめてあげる"としていたことが、相手、つまり3人に委ねるという"抱きしめてくれる"というように解釈が変わっていく。

結束バンドがこのまま楽しく、そしてより良いものにしていきたい、そして自分が3人を引き立てれるようになりたいという願い事。織姫と彦星、喜多ちゃんとぼっち。


そういえば1番の歌詞は"ギターと孤独~"の歌詞を書き上げようとしていたぼっちが最初に喜多ちゃんのイメージで書き上げようとしていた詞そのものではないだろうか。"笑顔はきっと幸せを呼ぶおまじない"だとか"言葉にそっと、魔法のスパイス"とか...。

(楽曲とは別の感想だが、アウトロのリードギターのピロピロパートで、何となく舞台版ぼざろのぼっち、詰まるところ守乃まもさんのことを彷彿とさせられてしまった。)


2. 惑う星

冒頭部分の木々や地面を映すカット、似た描写のものが多く探すのに苦労したが多分"これはスロウレイン"のオマージュだろう。


冒頭から歪みまくったベースの打音から幕が開け、本編全てに於いてソロかのようにうねるフレーズが響きまくる。最終的にフィードバックノイズまで飛び出している程。基本バンドサウンドにおいてベースは後ろで支えるタイプの楽器で、そこまで前面に出ることはなくギターの絡みやメロディを軸としたものの脇を固めるためのものとして使用されることが多いが、そこは流石山田というところか、逆にギターやドラムを自分のサウンドを支えるボトムとしてしまっている (勿論十二分にそれぞれの楽器の主張はあるが)。また聴こえてくるのはバイオリンの音色。どうやら山田リョウは作中設定としてバイオリンも弾けるということで、そこからの引用としてサウンドに入れ込んでいるらしい。このことによりACIDMANらしさというものをより色濃く感じさせることになる。

表現力高い水野朔さんの歌声とクール且つ熱の篭った楽曲の"私が主役だ!"と言わんばかりの主張強めのアプローチに喰らわされてしまう。が、歌詞としてはバンドへの向き合い方、葛藤、そして自分自身の居場所でもある結束バンドへの想いをこれでもかと詰め込んでいる。1度バンドにおける関係性を失敗している山田だからこその理解と、そのことで少し醒めた気持ちの熱が沸々と湧き上がり青い炎が滾っている様が描かれた詞は他の3人とは一線を画す。ただ、"青い蝶"だったり自分のことをキザな感覚で喩えていたり、"月明かりを食べられたらいいのにな"って相変わらず空腹なのかなとか、詞の中にもニヤッとしてしまうような部分が入り込んでいるのもポイントだろう。

彼女もまた孤独ながらに想いを背負って立つ一人。抱え込んだ願いを空に発する。


3. UNITE

ティーザー冒頭部分は"swim"のMusic Videoのオマージュ。


小さいシンバルやチャイナの裏側を叩くようなフレーズから幕が開け一気に駆け上がるようなサウンド。静と動を活かしサビでの沸騰するようなツービートのアグレッシブさを生み出す。間奏のアルペジオ展開がまたニクい。確かに虹夏は好みの音楽の話で"私はメロコアやジャパニーズパンクかな?"と言っていたようにバチバチにそのテンション感で突き進む。そんな中ぼっち節が炸裂でもあるメタリック・ハードロックライクなリフで構成されるイントロや間奏は何処となくRIDDLEやTOTALFATを彷彿とさせられた。楽曲に喰らいつこうとするその歌声は虹夏というより鈴代紗弓さん感が強い気もするが、演じてる当人なんだからそりゃそうか。

(歌詞のテーマも間奏で転調するとこも近いところがあると思う。)

(上記PV時のメンバーでもあったKubotyさんは舞台版ぼざろの音楽監修もされている。)

(楽曲提供したGENさん率いるフォーリミ。学生時代にこのPV観て声高え...ってビビった記憶がある。)


UNITE...結託、結成、繋がる、一つに合わさる..."milky way"然り"惑う星"然り結束バンドは何かと星や天体をテーマとした楽曲が多いようにも思うが、この楽曲もご多分に漏れず。虹夏自身が見つけた輝きたち (リョウ、ぼっち、育代)を繋ぎ止めて一つの光に纏め上げる、つまりバンドとしてより結束していくということ。このバンドを終えてしまうようならばそれこそ本当に何もかも終わっていってしまうと、若年期特有の一種の絶望感に達しないように、ずっとやっていくんだという意思表明。自分自身にも言い聞かせるように繰り返しの言葉で歌い上げていく。

バンドへの想いが強いからこそ出てくるシンプルながら大切な気持ち。リーダーらしく気丈に振る舞う彼女の本心からの願い。


4. 夢を束ねて

ティーザー映像が公開された時点で涙腺が緩んでしまった。あまりにも眩く、そして楽曲のエンドロール感に感傷を刺激されてしまう。冒頭部分は"クロノスタシス"のオマージュだろう。


作品全体のモチーフとなるASIAN KUNG-FU GENERATIONのカバー2曲を経て、遂にぼっちのオリジナルソングが誕生。ずっと歌詞担当として楽曲に気持ちを綴ってきてはいたものの、ここに来てよりピュアな感情を溢れさせた。

原作、アニメのストーリーを経ても、相変わらずの性格のままで何事にも不安な気持ちが付き纏ってくるけれど、それでも結束バンドが自分にとって居心地が良く、そしてこれからは自分だけじゃなく3人の為にもギターを弾いていこうと前を向こうとする。そんな自分の気持ちの変化に驚き、不信感も拭えないけど、でもそれが嬉しかったりもして。自分の口からはなかなかうまく言えないから、せめて歌詞の上では素直に、そして3人に伝えられるように。
バンド結成前夜、ひとりでギターを弾いていた時、何処かで挫折や涙を溢さずにはいられない瞬間があったと思う。何やってるんだろうなって時間を浪費することに嫌気が差すことも何度もあっただろう。それでもこうして結束バンドを組むことが出来て色んな経験をすることが出来て、そんな過去にようやく無駄じゃなかったのかもなと肯定することが出来た。バンドがでっかくなってすごい生活を送りたい!なんて誇大妄想もするけど、今のこの瞬間がずっと変わらずに続いていて欲しいという切なる願い。

ぼっちの声が優し過ぎて涙腺を誘う。あれこれを振り返って、そしてこれからもそんな程良い距離感で続いていくであろうバンドのことをこんな風に歌われてしまったらもう涙が止まらない。ジャケットの写真を重ねて思い返しているのはぼっちかもしれないな。


柔らかなミドルテンポのサウンドと、切ないコードワーク。歌詞にしてもそのメロディにしてもこちらの鼻腔を刺激してくる。ギターの泣きっぷりが効果的に効いてくる。気持ちを封じ込めていたぼっちの代わりに歪んだり鳴いてくれているかのよう。

"茜色に〜"という言葉を紡いでいくサビはフジファブリックの類似名であるあの曲を彷彿とさせてくるような、何処かで感じていたノスタルジーやほんのりと切なくなってしまう感覚がある (歌詞の面に於いても全体的にオマージュかもしれない)。

楽曲を手掛けた佐藤さん自身も自分の心境の変化に合わせてバンドサウンドの変化をしていたし、そこと後藤ひとりを重ねていたのかなとも思う。鬱屈とした感情も、安堵や穏やかな気持ちもどちらの心境も経験している彼女なりの愛だろう。


(束ね違いの名曲。この楽曲できのこ帝国を好きになった。)


夕暮れの空に思い出を重ねて、些細なことを4人で喜べるように。また始まったばかりの自分と結束バンドの日々に花束を、今度は4人で包んで。




5話に於ける山田の"バラバラの個性が集まって、一つのバンドになるんだよ。"を文字通り体現した作品となった。思い思いの考えは違えど、4人ともバンドのことを第一に考え、様々な願いを込めながら活動しているのだなと理解出来る。
詞的なテーマとしては虹夏とぼっちの楽曲が、サウンド的には喜多ちゃんとぼっちのものが、これまでのテイスト寄りのもので、あの頃の気持ちそのまま成長してきたんだなという感覚がある。
ただ歌声的にはキャラの顔よりも声優当人の顔の方が浮かび上がってくる気がする。リンクする部分が多くあるという意味ではアリなのかもしれないが。

飲み込むのに苦労しそうと思っていたはずの"Re:結束バンド"は伏線でしかなく、寧ろメンバーそれぞれの本懐はこちらの方だったということ (過去作に耳が慣れてきたというのもあるだろうが)。個々で熱量高い4曲が出てきたことで、これまでの結束バンドの作品はまだ全体の中和が行われていたんだなと理解出来る。

ただやはりこのテイストを各々で出されてしまうと1枚に纏めるよりそれぞれのメンバーで3、4曲のシングルを制作した方が良かったのではないかと思わされてしまう。それこそキャラソン集的なセンテンスが必要という意味合いで。勿論所謂なアニメのそれではなく"バンド"であるということに拘りを持っている、というのは理解出来るが、あまりにもかけ離れてるような気がするしライトなリスナー層を置いてきぼりにし過ぎでは無いだろうかという懸念がある。"Re:結束バンド"を変な編集盤だと当初は感じていたが寧ろこちらの方がそうだったかもしれない。良くも悪くもファンアイテム感があるようにも思える。

両A面シングルどころか、全A面シングルとでも言えるようなEP。サウンドの間口を解放したことでノリノリで制作していたのだろうが、こうなってくると逆に今後どんなものでも銘打てば良いだろうと思われてしまうんじゃないかという懸念があってそこはとても不安でもある。

これから一体どうなっちまうんだ...?とは思うけど、それぞれの楽曲一つ一つはクオリティの高いものであるから、今後も良い展開があることを期待しておく他ない。

ツアーも始まったということで、ライブを観てまた別の感情も生まれてくることでしょうし、また別の視点から楽曲に触れれることとなるでしょう。筆者はZepp Nagoyaに馳せ参じる予定です。